2006年12月06日

H-2Aが合理化される

三菱重工がH-2Aを合理化するようです。

記事を見てもピンと来ない方にちょっと補足説明をさせていただくと、衛星の打ち上げ重量を示す指標としては、GTO(静止トランスファー軌道)にどれだけの重量を打ち上げられるか、がよく使われる指標となります。これは、実用に供される人工衛星はたいていが静止衛星であり、ロケットの仕事はその静止軌道へ遷移するための軌道にまで衛星を運ぶことだからです(そこから静止軌道へは人工衛星が自力で遷移していきます)。この記事の「衛星重量」も、GTOへ投入される段階の衛星の重量を示しています。

さて、H-2Aロケットは現在、打ち上げる衛星のサイズに合わせて(16日打ち上げ予定の11号機が成功すれば)4つの形態が用意されています。

・H-2A 202 GTO4.1t(3.7t)
・H-2A 2022 GTO4.5t(4.2t)
・H-2A 2024 GTO5t(4.6t)
・H-2A 204 GTO6t(5.7t)

カッコ内は今現在の能力です。現在、H-2A6号機の失敗の教訓から、SRB-A(横についている太い固体ロケット)の推力を落として安全策をとっているため、少々打ち上げ能力が落ちています。
この数字の3桁目と4桁目は、それぞれSRB-AとSSBという別個の固体ロケットを何本つけるかを表しています。たとえばH-2A 2024なら、SRB-A2本、SSB4本ということです。

このSSBとはCastor-4AXLという、アメリカのサイオコール社の既製品で、まるまる輸入品です。切り離し方法もSRB-Aとは異なります。そして三菱重工は、H-2A2022と2024をラインナップから外そうとしています。これは次のような利点があります。

・固体ロケットをまるまる輸入しなくてすむ
・H-2A本体へのSSB取り付けを考慮しなくてすむため、生産ラインが簡素化される

これ以外にもあるのでしょうが、まずはこれで1割のコストダウンが見込めると記事にはあります。この1割のコストダウンがどれほどの物かというと、現行、202型は一機94〜96億円程度で生産されていますが、本来85億が目標でした。調達コスト1割減で、まずこの目標が達成されます。204型はまだコストは不明ですが、おおよそ105億程度ではないかと推測されます。これも95億程度にまでコストダウンされることでしょう。

そして、最終的に3割コストダウンとなると、202型でおおよそ65億強、204型で75億弱となります。これは、特に204型にとっては国際競争力を確保できる可能性のある数値となるでしょう。

現在商用ロケット打ち上げといえばまずアリアン5ですが、これは1機おおよそ140億円します。その分をデュアルローンチ(複数衛星の同時打ち上げ)によって費用を分担して、衛星1機あたりのロケット代を安くあげています。

しかし、GTO6トン級の衛星をあげたい顧客がいたらどうでしょう?このときアリアン5に相乗りできるのはGTO3トン級ですが、衛星のサイズが明らかに違うのにロケット代は割り勘というのはどうでしょう?
さらに、デュアルローンチは、打ち上げたい衛星の軌道がほぼ同じ場合にしかできないという欠点もあります。

そこに、費用3割削減に成功したH-2Aがつけ込む隙があると思うのです。GTO6トン級衛星の、デュアルローンチと同等かそれ以下の値段での打ち上げ。
もしくは、地球観測衛星などのデュアルローンチの利かない(つまり、明らかにアリアン5では大きすぎる)衛星の打ち上げ。

ただでさえ小さな衛星打ち上げ市場の、さらにニッチな市場ではありますが、先代H-2の頃からの悲願であった商業打ち上げで勝負できそうな分野が、この合理化で出来てくるかもしれないのです。

…しかし同時に、この合理化は、H-2Aからその最大の「見せ場」を奪うことになるのでしょう。
H-2A 2022/2024のTプラス10秒「SSB空中点火」を。

合成音声のカウントダウンが進みます。10秒前。全システム準備完了。3秒前。メインエンジンスタート。ゼロ。SRB-A点火、リフトオフ。カウントアップが始まり、ゆっくりとH-2Aが全長53メートルの体を持ち上げます。
タワークリア。そしてカウント10。ボムッ、と爆発したかのようにロケットから吹き出す炎がふくらみます。空中でSSBに火が入ったのです。そしてロケットはそこから一気に加速を始めます。天空を目指して。
元々SSB空中点火は「地上で点火するとロケット&地上設備にダメージが行く」というやや(´・ω・`)しょんぼりな理由で行われるようになった苦肉の策なのですが、それがよもや打ち上げ最大の燃えどころとなるとは、JAXAの(当時はまだNASDAか)中の人も思いもよらなかったことでしょう。

ごく近い将来、あのすばらしい光景はもう見られなくなるのでしょう。合理化の陰を見た気がした高速増殖安崎です。

註:だからといって合理化反対というわけではありませんのであしからず。
posted by 高速増殖安崎 at 22:51| Comment(2) | TrackBack(0) | 天空への挑戦 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コストダウンは良いことだ。
で、M-Xの後釜ってどうなる予定だったっけ?

それとカウントダウンボイスを声優に発注する日はまだ来ませんか、来ませんね。

個人的には「ロケットガール」の繋がりで取り合えずガンスリのトリエラの中の人こと仙台エリさんあたりを。
当然だが無駄な台詞はなく、淡々とカウントダウン。見せ場は「リフトオフ!」の所だね!!

ロケットガールは「浜松に帰るんだ!」を見たら満足してしまいそうで怖い。
Posted by Sinnto at 2006年12月07日 12:55
M-5の後釜は…未確定と言っていいんじゃないかなぁ。
筑波案のSRB-A一段目に据えた2段式でLEO500kg、3段で1.3tってのが有力候補として上がってるようだけど、何とも…
ちなみにこれ実現したら間違いなくJ-1の二の舞だぜ…

ロケガ…なぜWOWOWなんだ?うちのケーブルテレビWOWOW見れないのに…
…期待してるよ?(何をだ
Posted by 高速増殖安崎 at 2006年12月08日 21:50
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